『記憶』
先日、学生時代の恩師に会いに、となり町まで行って来ました。1時間に1本しか電車が走っていない単線の、2両編成のオンボロ車(失礼!)に、がたんごとんと揺られること20分。駅まで迎えに来てくださった先生とは約7年ぶりの再会でしたが、先生は変わりなくお元気そう。ひょうひょうとしていて親しみやすく、あたたかいお人柄も、昔のままでした。面白いこと、楽しいことを見つけ出すことにかけては天才的な先生。以前より少しは“大人”になったわたしは、まるで古くからの友人のように、思い付くままいろんな話をして、たくさん笑いました。
先生とお会いした町は、有吉佐和子さんの小説でも有名な紀ノ川(吉野川)のそばにあります。大和や紀伊の山々に囲まれた緑豊かなこの町には、明治や大正、昭和初期の建物がまだまだたくさん残っています。そんな古い街並の中に、わたしの遠い先祖の里であるお寺があり、今も遠縁の親戚が住んでいるのでした。
わたしはこの町の生まれ育ちではないし、何か強く印象に残るような思い出があるというわけでもありません。でも、ここに来ると、体の奥の方から、なにか原初的な記憶が甦るような気がするのです。それは強い郷愁をともない、激しく心を揺さぶられるのでした。わたしが生まれて来る前の、誰かの記憶が宿るような、不思議な感覚。
遠い昔から今日まで、多くの人々が愛を育みながら、日々の暮らしを営み、長い歳月を重ねるという、そのくりかえし。誰かの命が、確かにわたしに伝えられ、今ここにつながったのだ、ということが実感として体中を満たしてゆくようでした。

