『あなたのたいせつな歌』
最近、古い歌を聴いています。
戦争中の歌や、戦後間もなく流行った歌。李香蘭や笠置シヅ子、美空ひばりに江利チエミ…など。
なぜ、そんなに古い歌ばかり聴いているのか。その理由は、お年寄りの前で歌うお仕事をいただいたことがきっかけです。
これまでにも、わたしは、老人ホームやホスピス、お寺や老人会など、多くの高齢者が集う場で歌うことを何度か経験していて、そういう場合のコンサートの内容は、大抵は童謡(文部唱歌のようなもの)とオリジナル曲で構成していました。
ところが今回は出演を承諾した後に「何か高齢者が喜ぶカバー曲(歌謡曲など)をお願いします」という条件がついてしまったのです。当然ながらカバー曲は、自分の身の内から湧き上がった歌とは違って、誰かが書いた音と詩をまずは解釈し、表現を組み立て、その上に初めて自分の想いを載せて、聴いてくださる方に届けられる形を作らなければなりません。楽曲に対して、ある程度しっかりとした理解を持っていないと、ただのお遊びのカラオケとどう違うのか、ということになってしまうので、納得のできる歌にするまでには、結構時間がかかるのでした。わたしにとっては緊張を伴う、難しい作業。さらには高齢者が喜ぶ歌、か…困ったことになったなあ。
わたしは、90歳になる祖母に聞きました。「おばあちゃん、好きな歌って何?」
祖母はしばし考えてから、わたしが聴いたことのない歌を歌い始めました。すると、それに合わせて、そばにいた両親も歌い始めます。そして…なんと歌いながら祖母と母が泣き出したのです。
?????わたしにはわけがわかりません。
なぜ泣くの?どうしたの?ふたりは言いました。「昔、むかしを思い出すからだよ」
わたしは家族が号泣したその歌を調べました。“異国の丘”というその曲は、シベリアの日本人捕虜が祖国を偲んで泣きながら歌った、という、戦争中の楽曲のようでした。わたしが聴いても、歌詞が素直に胸に迫る、というわけではなく、メロディにもなじめません。が、滅多に泣かない祖母が涙ぐんでいた姿が、わたしの頭を離れませんでした。これを聴くと、彼女の心の奥からは何かが溢れて来るようで、それがとても気にかかりました。
確かに、わたしも小学生の頃に聴いたアイドルの歌なんかを不意に耳にすると、なんとも言えない、ノスタルジックな気持ちになります。その頃の空気のにおいや、忘れていた誰かのことを鮮やかに思い出したりして。あと半世紀、わたしが生きていられたら、おにゃんこクラブの歌を口ずさみながら、ぽろぽろと涙を流すおばあちゃんになれるのでしょうね。うむ?むむむ…なんだか微妙だ(笑)。
何はともあれ、音楽は人の心を揺さぶり、記憶に働きかけ、その結果、時の流れをも自在に超えることのできる力を持つ、不思議なものですね。その不思議な何かに触れたくて、わたしは古い歌を学ぶことを思いついたというわけです。
遠い時代に生きた誰かの想いに耳を傾け、その歌に心躍らせ、心震わせた誰かの人生に思いを馳せることによって、今、ここにいる自分には、一体何を歌うことができるのかを、もう一度考え直すことができるような気がしています。
わたしもいつか、誰かのたいせつなうたに、なれますように、と。大それた夢を心に抱きながら。


蜜柑を聞いて涙を流しました。
老人の姿が、私の両親と重複しました。
六年前に他界しましたがね。
お祖母ちゃん、大切にしてください。
コメント by アクア — 2006/10/2 月曜日 @ 18:50:24
調べたい事があり「高齢者」「李香蘭」「歌」と検索検索して、こちらのブログに来ました。貴方の感じ方、おばあさまの涙、とても参考になりました。
というのも第2次世界大戦期の日本の歌で高齢者に好まれる美しく切ない歌を探しています。
話せば長いのでお時間があるときにでも覗いて見てください
http://angels-swing.com
私の祖母も祖父ももう他界しています。
「どんな歌を聴いてたの?」って聞けません。
とても参考になりました。
コメント by seina — 2006/10/11 水曜日 @ 13:36:45